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ハンス・ロット祭りを振り返って(TEXT by Hiroaki)



 ハンス・ロット(Hans Rott, 1858〜1884)の交響曲第1番は1878~1880年に作曲されたものの、ロットの存命中には演奏されず、1989年になってやっと初演された作品である。日本初演は2004年でそれから国内では2006年に演奏されたのみのようだ。

 そんな珍しい作品がアニバーサリーイヤーでないにも関わらず、2日間に3度も演奏されるという事件が起きた。演奏は川瀬賢太郎指揮の神奈川フィルハーモニー管弦楽団とパーヴォ・ヤルヴィ指揮のNHK交響楽団の2種類。当初は1日目に2回聴くのみの予定だったが、N響の圧倒的な名演に衝撃を受け、急遽翌日にもう一度ロットを聴くことにした。

 この曲はヴァイグレ/ミュンヘン放送響の録音で予習していたが、あまり曲が頭に残らないくらい印象は薄かった。マーラー好きとしては似ている部分は面白いが、知っている旋律との違いがもどかしくもある。IMSLPに楽譜は載っておらず、あまり予習が進まないままロット祭り当日を迎えることになった。

 まず初日、最初はみなとみらいホールで川瀬賢太郎指揮の神奈川フィル。川瀬さんの指揮からはこの作品に対する情熱が伝わってきて、オケもそれに熱のこもった演奏で応えていた。この作品はマーラーを先取りするような多彩で豊かな曲想がある一方で、厚塗りとも言えるオーケストレーションや洗練されているとは言えない構成など、弱い部分も少なくない。川瀬さんの演奏はそうした作品の長所も短所も全てを直球で表現するアプローチだという印象を受けた。3楽章の頂点への持っていき方や一部の弦楽の質感など良い部分もあったが、管楽器の精度や何ヶ所かのタメはほとんど失敗するなど演奏の粗さが目立ってしまった。そして何よりもこの曲の演奏の出来を左右すると言えるトライアングルが正確ではなく、単調でやけに響くので耳につくことが多かった。

 そして東横線に乗って渋谷へ移動。この時、「あの曲をもう一度聞くのか…ちょっと辛いなぁ」と内心思っていた。しかしこの後に考えが大きく変わることになるとは……

 2回目はNHKホールでパーヴォ・ヤルヴィ指揮のNHK交響楽団。この演奏が、曲が弱いという印象を吹き飛ばすほどの超名演だったのだ!!オケもなかなかの熱演だったのでは?聴く前までは作品の冗長さが心配でパーヴォさんなら少しはうまくまとめてくれるかなと思っていたのだが、上手くまとめるだけでなく、あそこまで作品を聴かせてくれるとは本当に驚きだった。そしてあまりの体感時間の短さにカットがあったのだと錯覚するほど……翌日に少し冷静に聴いてからやっと気づいたくらいだ。終演後、あまりの興奮に一緒に祭りに参加していたクラオタ仲間の元へ駆け寄ると、言葉を交わす前に思わずハイタッチ。全員の顔に「すごい演奏だった」と書いてあった。

 結局カットはなかったものの、パーヴォさんが独自に手を入れたと考えられるのは2つあった。まず1楽章クライマックスのトライアングルの増強、そして4楽章のクライマックスでのシンバルの追加である。そして金管もホルンを8本に倍増し、トランペットも5本に増やしていた(ちなみに神奈川フィルもホルンは7本に増やしていた)。しかしこれは先ほど述べた作品の弱さを考えれば納得であり、打楽器もブルックナーのことを考えればアリだと思う。

 パーヴォさんの演奏はマーラー的な部分はほぼ完全にマーラーとして聴かせていたのも特徴的だった。部分部分の金管の響きは明らかにマーラーの音。オケのせいもあるかもしれないが、マーラーも得意とする、もっと言えばマーラーもブルックナーも得意とするパーヴォさんだったからできた演奏だったのかもしれない。

 そして3回目は翌日のN響の2日目。初日にやや強引に感じた部分も自然な流れになり、前日の驚きがこの日は感動になった。音も解放的でより充実した音に。最後のシンバルでは涙が…終楽章は強奏が続く場面が多いが、それでも最後には一段、さらに一段と頂点へと導く手腕は素晴らしいと思う。


 最初は興味本位の軽い気持ちで参戦したロット祭り。2日間で3回聴いた事で、弱さはあるものの魅力的な部分も多い作品であると感じることができた。しかしそれ以上に、パーヴォさんとN響の好調ぶりとパーヴォさんの凄さを改めて思い知らされたというのが正直なところではある。神奈川フィルの方も演奏の精度が高ければまた違った印象になるのかもしれない。演奏の完成度が全てとは言わないが、私のような聴く前からロットファンではない人間にはパーヴォさんくらい聴かせてくれないと、演奏から曲の良さを感じることはなかなか難しい。今回の曲のような時は特に…繰り返しになってしまうが、カットしたと錯覚するほど体感時間が短くなるほどの聴かせ方は後から考えても衝撃的だ。パーヴォさんとN響のコンビには次のプロコフィエフも名演を期待したい。


TEXT by Hiroaki
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プロフィール

Capriccioso

Author:Capriccioso
執筆者プロフィール

Hiroaki
生音大好きのヴァイオリン弾き。ここ数年は年間100回前後に及ぶ演奏会へ足を運ぶ。特にジョナサン・ノットと東京交響楽団のコンビが大好きで、それを聴くことが生き甲斐となっている。後期ロマン派が大の好物。

H. Honda
19世紀後半ドイツの器楽作品を研究対象として扱っている大学院生です。好きな作曲家はブラームス、好きな指揮者はブロムシュテット。他媒体では、演奏会の曲目解説や海外盤のCD評なども執筆しています。

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